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last update:09/12/24  

   image J-PARCの稼働とKEK     2009.12.24
 
        〜 8年目のNews@KEK 〜
 
  KEKに広報室が発足してから8年、毎週木曜日に掲載してきたNews@KEKの記事もこの記事で405本目になります。KEKの研究所としての研究テーマや世界の中で果たしていく役割、研究者と社会との関係もずいぶん変化してきました。過ぎ行く2009年をニュースやトピックス記事で振り返ってみました。

大型加速器、J-PARCの稼働

KEKにとって今年、大きな節目となったのは、日本原子力研究開発機構と共同で東海村に建設を進めてきた大強度陽子加速器施設(J-PARC)の全実験施設が稼働を開始したことです。

大型の多目的施設として稼働したJ-PARCには、国内外からも多くの期待が寄せられています。7月6日には政府要人や海外の著名な研究者、建設に携わった関係者などを招待して完成記念式典が開催されました(図1)。

J-PARCは水素の原子核である陽子を加速してグラファイト(炭素)や水銀の標的にぶつけ、そこから発生する中性子、ミュオン、K中間子、ニュートリノなどの二次粒子を、原子核や素粒子などの基礎科学から物質・生命科学、さらには産業への応用研究まで様々な分野に用いるための共同利用施設です。

J-PARCには3つの実験施設があります。その一つ、物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子ビームラインは2008年春に初めての中性子ビーム発生に成功し、秋にはミュオンビームも利用できるようになりました。2009年は、大学や企業などの研究者が様々な物質や生命の謎を探るための超巨大顕微鏡としてMLFの中性子とミュオンの利用を開始した年となりました。

今年7月には、ミュオン・スピン回転法(μSR)という手法を用いて新しい鉄系超伝導物質の状態が明らかになりました(図2)。企業や地方自治体、大学などの研究者が開発運営する中性子ビームラインの設置作業も進み、6月にはその一つ、中性子全散乱装置NOVAの完成披露式典が開かれました。

J-PARCには他に原子核と素粒子の分野の研究を行うハドロン実験施設とニュートリノ実験施設があります。ハドロン実験施設では1月に入射に成功し4月にK中間子の発生が確認され、その後も施設の機器調整と実験が並行して進められています。ニュートリノ実験施設では295km離れた岐阜県飛騨市のスーパーカミオカンデにニュートリノを打ち出すT2K実験を開始し、4月23日にはミューオンモニターで、11月22日には前置ニュートリノ検出器"INGRID(イングリッド)"でニュートリノの生成を確認しました(図3)。

素粒子物理学の新展開へ

KEKのBファクトリー実験では加速器の性能向上が続き、5月にはKEKBの性能が設計値の2倍を達成し(図4)、11月には蓄積データ量が1000fb-1(インバースフェムトバーン)に到達しました。これは生成されたB中間子・反B中間子対の総数が10億個に達したことを意味します。データ量が増えることで、ビームのエネルギーよりも遥かに高い領域の現象を捉えることが出来る「ペンギン崩壊」という稀な現象を精密に調べることができ、素粒子の標準理論では説明がつかない現象にアプローチすることができるようになります。Belle実験グループではB中間子の極めて稀な崩壊過程に新しい物理のヒントとなる実験データがあることを発表しました(図5)。

高いエネルギー領域のフロンティアとなるヨーロッパのLHC計画も、昨年9月に起きた超伝導磁石の事故の復旧が進み11月23日にLHCで最初の陽子と陽子の衝突事象が観測されました。LHCのATLAS測定器で活躍する日本人研究者の様子は7月23日の記事で読むことが出来ます。

物質の構造を探る

今年お伝えしたニュースで多かったのが、KEK物質構造科学研究所(物構研)から発信される研究成果です。物構研では今年4月、物性科学分野の研究で世界的研究拠点となることを目指し、これまでの研究系に加え新たに「構造物性研究センター」を設立しました(図6)。また、今年フォトンファクトリーから生まれた成果からは、タンパク質が「深呼吸」する様子の発見(図7)、免疫スイッチに結合するタンパク質の仕組み(図8)、希少な磁気八極子の直接観測遺伝情報の読み取り役「tRNA」の成熟化過程について…… などなど、様々な興味深い事象をニュースでもお伝えしました。

学生や市民との交流

昨年ノーベル物理学賞を受賞された小林誠特別栄誉教授のシンポジウムを初め、様々な講演会や学生向けの実習が大幅に増えたのも今年の特徴の一つです。8月にはアジア各国の大学生や高校生を集めてノーベル賞受賞者らの講義と実習を行うアジアサイエンスキャンプや、国際物理オリンピックの国内予選となる物理チャレンジ、物理学専攻の大学生向けのサマーチャレンジ、東京国際フォーラムで開催された宙博(そらはく)2009への参加など、大きなイベントが相次ぎました。J-PARCとKEKつくばキャンパスで開かれた一般公開にもそれぞれ4千人近い来訪者がありました(図9)。

社会の変革に向けて

宇宙や自然の謎に迫る好奇心に基づいた基礎科学の研究から、産業構造の大転換を支える応用研究まで、KEKでは幅広い活動が進められています。研究に投入されている税金の使途や成果の公表についても、これまで以上にわかりやすくかつタイムリーな説明責任が求められる時代となりました。KEKの研究現場の「今」を伝えるニュース記事を発信していきますので、これからもぜひご愛読いただけますようお願いします。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→2009年のニュース一覧
    /ja/newskek/2009/

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[図1]
来賓からのメッセージが終わると、海外からの招待者が一斉に段上に上がり、喜びあった。
拡大図(41KB)
 
 
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[図2]
J-PARC MLFではミュオン・スピン回転法と呼ばれる分析手法を用いて超伝導のしくみを解明する研究が行われている。左は銅酸化物の高温超伝導物質La2CuO4の結晶構造。銅(Cu)と酸素(O)でできた層が超伝導を担う。Laはランタン。右は新鉄系超伝導物質CaFe1-xCoxAsFの結晶構造。中央の四面体からなる部分がFeAs層。Fはフッ素、Caはカルシウム、Feは鉄、Coはコバルト、Asはヒ素。
拡大図(60KB)
 
 
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[図3]
左はニュートリノファーストビーム関係者のビーム生成記念写真。右はT2K実験ニュートリノ検出器"INGRID(イングリッド)"。
拡大図(65KB)
 
 
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[図4]
上はKEKB加速器トンネル内に設置された超伝導クラブ空洞。
拡大図上(82KB)
 
 
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[図5]
B中間子がK中間子とレプトン対に崩壊する過程(ペンギンダイアグラム)。
拡大図(19KB)
 
 
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[図6]
物構研は、加速器が生み出す放射光、中性子、ミュオン、低速陽電子という4種類のビームを用いる研究施設を備えた、世界でただ一つの研究所。これら4つのビームの総合的な活用をより一層進めるために、4月1日、物構研に新しく構造物性研究センターが設立された。
拡大図(46KB)
 
 
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[図7]
フォトンファクトリー・アドバンストリング(PF-AR)のビームラインNW14Aで時間分解X線構造解析法を用いて、ミオグロビン分子内の一酸化炭素分子が移動する過程の分子動画を撮影した。レーザーの光を照射後に、一酸化炭素分子がタンパク質分子内の「穴」の間を飛び移り、あたかもタンパク質分子が「深呼吸」をするように、一連の「穴」の形状が時々刻々、次々と変形する姿が捕えられた。(図は移動過程を簡略化したアニメーション。)
AVIムービー(8.7MB)
 
 
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[図8]
NF-κB(エヌエフ・カッパービー)と呼ばれるDNA転写因子の活性化に重要な役割を果たしている、直鎖型ポリユビキチンとNEMO(ニモ)というらせん状のタンパク質。直鎖型ポリユビキチンがNEMOに結合し、NEMOのらせん部分がわずかにほどけることがNF-κBの活性につながり、免疫応答や炎症反応などを引き起こす。
拡大図(1.1MB)
 
 
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[図9]
一般公開の小林誠KEK特別栄誉教授による講演会場は、本会場・中継会場とも満員御礼。
講演のビデオはこちら
拡大図(63KB)
 
 
 

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