中性子科学の技術的発展に顕著な貢献を行った個人あるいはグループに対して授与される日本中性子科学会の技術賞を、2020年度は物構研職員を含む2つのグループが受賞しました。
J-PARCの大強度中性子ビームの特徴を活かし、物質・生命科学実験施設(MLF)に世界最高の分解能をもつ超高分解能TOF型粉末中性子回折装置SuperHRPDを建設したことが評価されました。
高感度の検出器800本を用いることで、大面積かつ高位置分解能をあわせもつ検出システムを実現し、MLFの建物を飛び出す100 mもの長さのビームラインを建設することで、分解能はΔd/d = 0.0365%を達成しました。この分解能は放射光粉末X線回折の最高分解能と同等で、世界の中性子回折装置の中でもずば抜けて高いものです。
MLFにおいてこのような高性能の装置が開発できたのはKEK中性子散乱実験施設KENSの時代から受け継がれてきた知見によるもので、SuperHRPDの前身となったのは、世界で初めて40 mにも及ぶスーパーミラーガイド管を採用したTOF型粉末中性子回折装置Siriusでした。
SiriusおよびSuperHRPDの活用例については以下の関連記事をご覧ください。
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J-PARCの3 GeV陽子ビーム輸送施設は、シンクロト口ンから出射した大強度陽子ビームを、MLF内のミュオンターゲット及び中性子ターゲットに入射させる世界最先端の陽子ビーム輸送施設です。設計当初より、大強度の陽子ビームを300 m以上輸送すること、陽子ビームの効率的利用のため薄いミュオン生成ターゲットと厚い中性子生成ターゲットを串刺し状に配置する方式を採用したことから、ビームライン機器の放射化の低減や中性子ターゲット容器材料の照射損傷低減など解決すべき多くの課題がありました。研究グループは、両ターゲットの配置の検討や輸送系の設計、装置損傷の軽減などについて精力的に技術開発とその実証試験を行い、MLFの大強度安定運転を達成しました。特に、エネルギーの高い一次陽子ビームに着目したターゲットの配置はユーザー供用時間の増加に、非線形ビーム光学によるピーク電流の平坦化法の開発はMLFの1 MWの安定運転に直接つながる成果で、数多くのJ-PARC MLFユーザーの共同利用に貢献しています。
非線形ビーム光学によるピーク電流の平坦化法の開発については、今年7月にプレスリリースを行いました。
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