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令和2年度 物構研退職記念最終講義が行われました

物構研トピックス
2021年3月31日

3月26日、「令和2年度 物構研退職記念最終講義」がウェブセミナー形式で開催されました。313名の事前参加登録があり、当日の参加者は294名でした。

当日は、最終講義に先立って、先生方のそれぞれの居室にて花束および記念品の贈呈が行われました。
先生方、長い間お疲れさまでした。ありがとうございました。

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2021年3月26日開催 令和2年度 物構研退職記念最終講義


最終講義では、まず物構研 小杉 信博 所長の挨拶と各先生の紹介の後、物構研 技術調整役 小山 篤(こやま あつし) 先任技師から退職の挨拶がありました。 小山先生は、フォトンファクトリー(PF)で放射光が発生してから2年後の1984年にKEK(高エネルギー物理学研究所)に入所されました。放射光測定器系で3人目の技官だったそうです。PFのXAFS(ザフス)ビームラインを中心として放射光科学を支える技術開発に貢献されました。

挨拶する小山先生

挨拶では、入所当時の職場の雰囲気や思い出のビームライン BL-10Bなどについて語りました。PFの実験ホールにまだ空間があった時代、新ビームラインの建設と並行して、実験データの質の向上につながる分光器の調整技術の開発や改良を行っていたことを紹介しました。そのほか、実験の安全管理に関わる仕事や、近年は技術部門の職員採用に関わる技術職員インターンシップの初開催に尽力したことを振り返りました。

小山先生への花束贈呈のようす PF研究棟にて

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続いて、放射光実験施設 基盤技術部門の岸本 俊二(きしもと しゅんじ)教授から「放射光実験用検出器の開発」と題して、放射光実験用の検出器開発に尽力した研究者としての歩みを語る講演が行われました。
岸本先生は、総合研究大学院大学(総研大)の高エネルギー加速器科学研究科 物質構造科学専攻長を務めるなど、学生の教育にも熱心に取り組まれました。

講演中の岸本先生

岸本先生は、京都大学の大学院時代から気体検出器の研究を行っていたそうです。 KEKに就職された1987年当時、フォトンファクトリーの実験ホールは、まだ建設されてないビームラインを残すものの、共同利用実験が本格的に始まり、運営の人員が不足しているときでした。着任後は、BL-4Cの大型四軸X線回折計の担当になり、イメージングプレート(IP)を使ったX線検出器の開発などを担当しました。 翌年には検出器開発に関わる研究を開始し、1989年からBL-14Aを担当することになって、放射光による原子核共鳴散乱実験では「速い検出器」が必要と知り、独自に実験用検出器の開発に取り組み始めたそうです。 岸本先生が着目したのは、高計数率が可能で、低ノイズ、ダイナミックレンジが広いSi-APD(シリコン・アバランシェ・フォトダイオード)検出器で、1992年にはBL-21に設置されました。その後も、より効率のいいAPD検出器の開発を続け、1995年にBL-14A四軸X線回折計用の検出器を開発しました。これは多くのユーザーに利用される検出器となり、今でも現役で活躍しています。
岸本先生は講演の最後に、検出器を使う人に理解してほしいこととして「万能な汎用検出器は存在しない」ということを、検出器を作る人に改めて伝えたいこととして、検出器開発にどう取り組むかは自分が決めること、などメッセージを伝えました。
講演後、会場の北海道大学 朝倉 清髙 教授からSi-APDの低温作動について技術的な質問があり、岸本先生は検出器の特徴を丁寧に説明していました。

岸本先生への花束贈呈のようす PF実験準備棟にて

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続いて、中性子科学研究系の神山 崇(かみやま たかし)教授から「TOF粉末回折法の発展」と題して講演がありました。
神山先生は、2000年にKEKに着任され、中性子回折計の開発に取り組まれる一方、日本結晶学会と物構研が主催する「対称性・群論トレーニングコース」の運営や、総研大の高エネルギー加速器科学研究科長を務めるなど、国内外の若手の育成に力を入れてきました。

講演中の神山先生

神山先生の最終講義は、距離・時間図を使った飛行時間法(TOF法)の解説から始まりました。 100mの長さを持つJ-PARC MLFのBL08 超高分解能粉末中性子回折装置 SuperHRPDで中性子の飛行時間を測れば、かなりの精度でその波長を知ることができます。 途中に試料を置いて、その速度変化を調べれば試料による中性子の散乱の様子が分かり、速度変化がない多数の回折波ピークの位置と強度から試料の結晶構造を知ることができます。 さらに、異なる角度の検出器に飛び込む同じブラッグ散乱による中性子散乱データを足し合わせることで高強度が得られる、それが神山先生が長年にわたり開発を続けているTOF型中性子回折法です。
講義では、東北大学理学研究科附属原子核理学研究施設(核理研)からKEKの中性子散乱実験施設 KENS、J-PARC MLFに至るTOF型粉末中性子回折計の歴史を辿り、KENS時代の様々な中性子回折計を紹介しました。 特に2000年10月のJ-PARC中性子の将来計画検討会における多数の開発担当者による45台の実験装置の図面検討が印象的だったと語り、超高分解能、in situ、時分割など性能の異なる複数の装置を協力して作り、それぞれの能力を発揮することが大切だと強調しました。 また、装置が有能でも油断しないで、同じことをやっていてはいけない、装置整備をきっちりやって、丁寧にデータを見直すことだと述べました。
講義では、J-PARCの他の組織との交流も大切というメッセージが込められていました。 MLFは完成した今でこそ装置ごとに運営・管理する組織が分けられていますが、建設・開発段階では人的に組織を横断するつながりがあったことを感じさせられました。
神山先生はKEK退職後も、国際的に中性子実験装置開発の仕事を続けるそうです。

神山先生への花束と記念品贈呈のようす KEKつくば4号館にて

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続いて、村上 洋一(むらかみ よういち)教授から「面白かった研究とお世話になった人たち ―物性研究今昔物語―」と題して40年の物性研究を振り返る講演がありました。
村上先生は、1994年から2001年、および2009年からKEKに籍を置いています。軌道秩序観測のための共鳴X線散乱法を確立し、放射光を利用した構造物性研究を先導しただけでなく、2009年からは物構研の構造物性研究センター(CMRC)センター長を6年間、2012年からは放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)の施設長と物構研の副所長を6年間兼務されました。

講演中の村上先生

村上先生の講義は、松山で過ごした少年時代から興味があった磁石の研究をしたいと大学に進み、影響を受けた恩師の話から始まりました。 最も影響を受けたのは、実験をやりたくて大学院から師事した長谷田 泰一郎 教授で、「個人のアイディアに基づく独創的な研究、とにかく面白い仕事をやれ」と言われていたことが、そのまま村上先生の信条になったそうです。長谷田先生の言う「妖気漂う」研究というものも村上先生が追い求めるものとなりました。 学生時代、ほぼ手作りの実験装置で、十分に妖気漂う実験をして黒鉛層間化合物の擬二次元系物質の異常磁気記憶効果を発見、研究者としての道を歩むことになります。
筑波大学を経て東京大学の壽榮松研究室の助手になって真の二次元系磁性体である酸素単分子層の実験を続けるうち、手作りの装置での実験では足りず、量子ビームの世界へ足を踏み入れます。 KEK フォトンファクトリーでX線回折実験、中性子散乱実験施設 KENSで磁気散乱実験を行うほか、中間子科学実験施設 MSL、原子力科学研究所の実験用原子炉 JRR-3のユーザーとなりました。 その間、フラーレンの強磁性などを発見するなど妖気が漂う研究を続けました。 1994年にKEKに着任してからは、PF BL-4Cの改造やBL-18C、BL-1B、BL-3Aなどのビームライン建設、X線磁気散乱の研究を続け、マンガン酸化物の電荷・軌道秩序の解明や共鳴X線散乱法の開発など、妖気漂う面白い実験に没頭したそうです。
東北大学に移ってからは、「新しい研究ネットワークによる電子相関系の研究 ―物理学と化学の真の融合を目指して―」と題したコラボラトリーという研究システム構築を進め、東北大とPF BL-1Aを結ぶリモート実験を行うなど他機関との連携を進めました。その後、物構研 構造物性研究センター(CMRC)初代センター長としてKEKに戻り、PFの施設長時代には次世代放射光光源についての議論を牽引しました。
最後に、お世話になった大切な人たちとして、各時代にともに研究した同士の写真を紹介し、感謝の言葉を述べました。
講義後、妖気が漂う研究をする為の条件を問われると、「妖気が漂っているかどうかは分かる、でもどうしたら漂うようになるかは分からない。とにかく、面白いことをやろうということかな」と村上先生らしい誠実な答えが返ってきました。

村上先生への花束贈呈のようす KEKつくば4号館にて

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プログラムの最後に、足立 伸一 副所長が閉会の挨拶をし、「物構研が寄って立つ原点、DNAを感じさせる講演でした。流行を追いかけるのではなく遠回りでも自分で立って自分で考えて、量子ビームというインフラを生かしたオリジナルの研究や技術開発をすることが大事だと感じました。 それぞれの道に進まれてもOBとして物構研のことを気にかけていただき、折に触れてアドバイスを頂けるとありがたいです。」と述べました。

登壇者の集合写真
上段左から、足立 伸一 副所長、神山 崇 教授、雨宮 健太 研究主幹、中段左から、小杉 信博 所長、小山 篤 先任技師、村上 洋一 教授、下段左から、岸本 俊二 教授、船守 展正 PF施設長、伊藤 晋一 研究主幹

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